SASとは 睡眠障害50%の原因になる。国内潜在患者数は500万人
睡眠時無呼吸症候群(SAS、サス)とは睡眠の質を悪化する生活習慣病であります。ここでSASの原因、症状、簡易検査・PSG検査、診断基準、治療・対策を含めて重要なポイントについて近年の研究結果・専門ガイドライン的の指導上、わかる安く説明します。
- SASとは、何ですか?
- 睡眠時無呼吸症候群の原因は、何ですか?
- SASは、日本人に起こりやすいですか?
- 日本における無呼吸症候群の最近状況は、どうですか?
- 睡眠時無呼吸症候群の症状には、どんなものがありますか?
- 睡眠時無呼吸症候群の検査や治療を行う場合,何科に受診すればよいですか?
- SASの検査は、どんなことをしますか?
- 睡眠時無呼吸症候群の診断基準は、何ですか?
- SASは、生活習慣病と関係しますか?
- 無呼吸症候群の治療・対策はについて、教えてください?
Q1)SASとは、何ですか?
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome、SAS、サス)は生活習慣病の一つであり、21世紀の「国民病」、あるいは「現代病」とも言われています。原因によって3つのタイプがあります:
- 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome、OSA)最も一般的なタイプです。呼吸努力はしているにも関わらず、咽頭・喉頭部の狭窄・閉塞によって無呼吸が起こります。
- 中枢性睡眠時無呼吸症候群 (central sleep apnea syndrome、CSAS)まれなタイプです。呼吸を管理する脳部(脳幹)の問題で発生します。脳幹より呼吸の筋肉に送る信号は抑制したため呼吸努力が消失し、無呼吸が起こります。
- 混合型睡眠時無呼吸症候群(Mixed Sleep Apnea) 名前の通り、閉塞型と中枢型が混合したものです。
中枢性睡眠時無呼吸症候群(central sleep apnea syndrome、CSAS)は、慢性心不全のような特殊な疾患を対象としない限り、全体の1-2%に過ぎません。つまり、SASとは閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome、OSA)のことを示します。
SASとは、睡眠障害であり睡眠の質を悪くさせます。睡眠中に呼吸が10秒以上停止するのが無呼吸です。睡眠中に呼吸が10秒未満止まる若しくは減少する場合は、低呼吸になります。PSG検査で、睡眠中の無呼吸と低呼吸の数を計測する事ができます。両方の数を合わせて、1時間当たりの数値を計算します。正常の数値は4以下ですが、5回以上になると睡眠時無呼吸症候群と診断されます。この数値は高ければ高くなるほど、重症度があがります。
SASは長期間未治療の場合はメタボリックシンドローム、高血圧、心筋梗塞、不整脈、脳梗塞、糖尿病などの生活習慣病を引き起こし、死亡に至ってもおかしくない危険性を伴います。一方、睡眠障害・日常居眠りの原因による交通事故をはじめ災害事故など、社会的に大きな影響を及ぼします。
OSAは大人のみならず子供・赤ちゃんでもしばしばみられます。子供のいびき・OSAでは扁桃腺の肥大症・アデノイド肥大症とアレルギー性鼻炎・花粉症が原因になります。
Q2) 無呼吸症候群の原因は何ですか?
OSAは睡眠時に行う上気道の狭窄・閉塞によって発生します。上気道とは鼻・口から気管まで空気が通る道のことで、骨格と軟部組織よりできています。それぞれに関与する原因が異なりますがここでは主な7つの原因を説明します:
1-顎・顔面の構造:OSAでは重要な原因です。骨格形状の異常として、小顎症・小下顎症と顎の後退があります。
2-肥満度:肥満の程度のみならず、内臓脂肪の度合い、脂肪組織は沈着する部位によってOSAの原因として重大な影響を及ぼします。国内の研究によるとSAS患者の60-70%には肥満症があります。
3-舌のサイズ(面積・容積):OSAの原因で上気道の狭窄・閉塞の発生が1番多い部位は中咽頭です。この部位では舌の後半分(舌根部)と扁桃腺があります。
4-扁桃腺の肥大症・アデノイド肥大症:特に子供のOSAでは1番の原因ですが大人の場合多くはありません。
5-軟口蓋のサイズ:上気道の狭窄・閉塞の発生が2番目に多い部位は上咽頭であり、軟口蓋の肥大によりその度合いは強くなります。
6-鼻づまり:アレルギー性鼻炎、花粉症と鼻中隔彎曲症は、鼻づまりによってOSAの程度が悪化します。
7-年齢:加齢に伴ってSASが増加します。
Q3)睡眠時無呼吸症候群は日本人に起こりやすいですか?
日本人は欧米人と比べると肥満の程度に関わらずOSAが出やすいようです。アジア人・日本人には同じBMIレベルの白人と比べるとSASの有病率が高いです。日本国内の潜在患者は500万人以上と推定されています!それには、次の3つの原因があげられます:
1)顔面・顎の構造:顎が小さいこと(小顎症・顎の後退)は遺伝子的にアジア人特有の顔・顎の骨格です。さらに、子供の頃に固い食べ物をあまり食べないと、顎の成長は不十分になり、上気道の面積・前後の径が減少します。日本では、戦後より食の西洋化が進んで、食事で噛む回数が半分以上減り、顎の発達が不十分な人が増えています。その結果、日本人は欧米人と比べて軽度・中等度の肥満でも上気道は狭くなります。
2)肥満傾向:近年の食事の欧米化と交通機関の進歩により肥満傾向が上昇しています。軽度の体重増加でも、上気道が閉塞し、睡眠時無呼吸症候群になりやすくなります。
3)加齢:日本の高齢化社会により、加齢に伴うSASも増加しています。
上記3つの原因により、昔と比べてSAS発症が増加傾向にあります。
Q4)日本における睡眠時無呼吸症候群の最近状況は、どうですか?
社会におけるSASの頻度は年齢、性別、民族、BMI、診断基準および重症度によって変わります。SASの頻度について日本国内で様々な研究が行われています:20~60歳の男性を対象にした研究では中等度以上の無呼吸症候群は6.7~22.3%です。逆に、30-69歳の女性を対象とした別の研究で、中等度以上(3%ODI≧15)の頻度は2.8%男性とは対照的に低いものでした。 (2)。米国の場合に、1993年の研究によって、30~60歳の男性で中等度以上のSASは9.1%と日本とにてるようでした(3)。同じ年代女性でも中等度以上の睡眠時無呼吸症候群は4.0%でした。男性のSASは、女性の2~3倍増です。
Q5)睡眠時無呼吸症候群の症状には、どんなものがありますか?
- こういう悩みや症状がありますか?
- 主人のいびきが酷く、たまにいびきとともに息が止まることがあり心配した!
- 30代-40代なのに健康診断で、高血圧・メタボと指摘され病院に受診を勧められた!
- 日中いきなり眠くなる!
- 睡眠時間を十分とったのに、異常な眠気に悩まされる!
- 集中力に欠ける、同じ物に必ずつまずく、会話が聞き取れない!
- 物忘れ・ケアミスが激しく、仕事が困難になる!
上記の症状で悩む場合には、OSAの確認が必要になります。OSAと強く関連する症状をまとめると:
- 習慣性いびき
- 昼間眠気・日中過眠
- 睡眠中の呼吸停止
- 睡眠中の窒息感
- 睡眠中3回以上の覚醒
- 集中力障害
- 倦怠感・日中過労
- 起床時 熟睡・熟眠障害
- 起床時 口腔内乾燥
- 咽頭刺激感
日中過眠症の原因として一番多いものが、OSA(40%以上)です。症状を標準的評価する、専用問診票(ESS)もあります。ESS問診票は日常生活における眠気・過眠障害を自覚的な評価する目的で、エプワース眠気尺度(Epworth sleepiness Scale;ESS)の問診票を用います。最近、StopBANGテストも流行っています。
OSAは昼間眠気、集中力・記憶力・感情コントロールを障害し、居眠り運転・交通事故、ヒューマンエラー・産業事故、仕事上の不注意を悪化させるものです。
上記以外の自覚症状として、コントロール不良の高血圧,糖尿病,脂質異常症の患者にもOSASが潜んでいる可能性があります。また、OSAによる睡眠障害が原因でうつ病、認知症とも関連してきます。
まとめ:上記10項目の症状は2項目以上持つ、またはESS点が11以上である場合、SASを疑います。SAS以外の疾患でも過眠症が発生します:ナルコレプシー、特発性過眠症、周期性四肢運動障害。鑑別する目的でSAS専門クリニックに受診し、必要によってPSG検査でSASの程度を確認するのは重要になります。
Q6) 睡眠時無呼吸症候群の検査や治療を行う場合,何科に受診すればよいですか?
SASの診断と治療の決定に際しては集学的医療が重要です。OSAの医療にかかわる主な科として耳鼻咽喉科、呼吸器内科と精神科が関与します。SAS診断・治療・対策に関する耳鼻科医の役割:
- 耳鼻咽喉科医は上気道の専門医であり、SASの診断・治療に積極的に関与します。
- 口腔の診察で口腔・咽頭の構造、軟口蓋低位、舌肥大、扁桃腺の肥大症の有無を診断します。
- 鼻腔の診察で鼻づまりの原因疾患の有無を診断します。
- 内視鏡検査、CT、MRI、アレルギー検査でSAS原因として上気道閉塞の問題部位を確認します。
- 簡易検査・PSG検査の結果を評価し、
- SASの重症度、閉塞部位、患者の希望を考慮し、
- CPAP療法、手術、口腔内装置の適応を検討し、
- 治療法の選択肢とその順序を提示します。
- 子供のSASで扁桃腺の肥大症・アデノイド肥大症の場合、手術の適応を検討します。
- SAS重症度の改善とCPAP療法の維持するため、同時に鼻副鼻腔・咽喉頭疾患の保存的治療・手術的治療を行います。
- OSAの合併症と他の睡眠障害の取り扱い循環器科、精神科など、他科との連携を図ります。
Q7)睡眠時無呼吸症候群の検査は、どんなことをしますか?
初診時にまず患者さんの症状を把握した上で、視診と内視鏡検査による鼻腔,口腔、咽頭,喉頭部の所見を評価します:扁桃線肥大の程度、舌・軟口蓋の増大程度。
米国睡眠学会のガイドラインにおいて、成人OSAの診断に2つ睡眠検査が明記されます:
1)簡易検査(簡易無呼吸モニター):OSAのスクリーニング検査として重要です。患者が自宅で就寝時に測定を行い、翌日、USBメモリーに記憶された測定データは解析されます。無呼吸低呼吸指数,無呼吸のタイプ(閉塞性,中枢性),Desaturation index などの結果が得られます。しかしながら,簡易検査はセンサーの脱落やアーチファクト等,取得データの正確性,自動解析の精度などの問題から偽陰性,偽陽性が多く,結果の解釈に注意が必要であります。また,簡易検査での結果がたとえ正常や軽症であっても,睡眠障害を疑わせる症状がある場合は,呼吸障害以外の睡眠障害も正確に診断できる医療機関との連携を築いておくことが重要であります。最近の新しい簡易検査機器では、精度が高い結果を得られます。
2)PSG検査(終夜睡眠ポリグラフ検査、Polysomnography):OSAの確定診断にゴールドスタンダードな検査です。PSG検査では睡眠の評価として脳波、眼球運動、オトガイ筋の筋電図を、呼吸評価として鼻口の気流、胸郭の呼吸変動、動脈血酸素飽和度、いびきを、その他,心電図,全脛骨筋の筋電図など各種生理現象を客観的に評価します。PSG検査のために病院に1泊入院する必要があるが、OSAの正確な診断が可能であり、治療方針を決定する上で最も重要な検査であります。
簡易検査では脳波所見がなく、睡眠分断の判断ができないため、日中の眠気などの自覚症状があり,AHIが5回以上/1時間の時にPSG検査は必要になります。
検査の結果について簡単に説明したら;SASの重症度は睡眠中1時間あたりの無呼吸(気流が10秒以上停止すること)と低呼吸(換気量が30%以上,10 秒間以上低下し,かつSpO2が 3%以上低下すること)の回数である無呼吸低・呼吸指数(apnea-hypopnea index:AHI)で判定します。
1時間当たりの無呼吸+低呼吸の数値(AHI)は
1) 正常 0~4
2) 軽度 5~14
3) 中等度 15~29
4) 重度 30~
PSG検査・簡易検査結果の判断は?
- 軽度のOSA:過去に心臓の病気、脳血管の病気がなければ、経過観察しますがあった場合にPSG検査にすすみます。
- 中等度のOSA:PSG検査にすすみます。
- 重度のOSA:特に1時間当たりの無呼吸+低呼吸の数値が40以上の状況でCPAP治療をお勧めします。
実はOSAの診断に関して、AHI数値以外にもさまざまなパラメータがあります:
- 酸素飽和度低下指数
- 酸素飽和度平均値、酸素飽和度最低値
- 酸素飽和度は90%以下になった時間
診断に役立つ補助検査:頭部規格Xp 側貌、CT、MRI が有用であります。
睡眠時無呼吸症候群の検査費用は?
簡易検査:保険費用に関する患者負担は約3000円です。PSG検査は、1泊2日の入院で行います。検査費用は1泊入院費込みで3~4万円になります。
補足:社会保険に加入されている場合、入院1日×2で保険金を請求できるため、入院費用軽減できます。
Q8)睡眠時無呼吸症候群の診断基準は、何ですか?
米国睡眠医学会より2014年に発表された、睡眠障害の国際的ガイドラインによって成人の閉塞性睡眠時無呼吸の診断基準 [1,2]:
(A and B)またはCのみ。
A.以下が1項目以上:
- 患者が、眠け、疲労回復しない睡眠、だるさまたは不眠を訴えます。
- 患者が、息こらえ、喘ぎまたは、窒息で覚醒します。
- ベッド・パートナーまたは他の観察者が、睡眠中の習慣性いびきや呼吸の中断、あるいは両者を報告します。
- 患者が、高血圧、気分障害、認識機能不全、冠動脈疾患、脳卒中、うっ血心不全、心房細動または2型糖尿病と診断されます。
B.PSG検査か簡易検査中に、睡眠中1時間当たり5回以上の閉塞性無呼吸(閉塞性、混合性無呼吸、低呼吸or 呼吸関連覚醒)を認めます。 あるいは
C.PSG検査か簡易検査中に、睡眠中1時間当たり15回以上の閉塞性無呼吸(閉塞性、混合性無呼吸、低呼吸or 呼吸関連覚醒)を認めます。
Q9) 睡眠時無呼吸症候群は、生活習慣病と関係しますか?
OSAは健康どれだけ悪化するか具体的に説明します。SAS患者は一般の人に比べると生活習慣病の危険率はかなり上がります:
- 高血圧症 約2倍 !!
- 虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞) 約2~3倍 !!!
- 脳血管疾患 (脳梗塞や脳梗塞) 約3~5倍 !!!!!
そのメカニズムとして:無呼吸によって低酸素血症、胸内圧の変動、覚醒反応が引き起こされます。その結果、交感神経の活性化されて、血管内皮障害,凝固能亢進を惹起します。高血圧、糖尿病、脂質代謝異常症、脳梗塞、心筋梗塞の発症要因となります。日本の高血圧治療ガイドラインでもOSAが高血圧を合併する疾患としてあがられます.
同様に心臓・脳血管の患者の中でも、SAS割合は高く認められます:
- 高血圧症の 37%
- 薬剤耐性高血圧症の 80%
- 狭心症の 31%
- 心不全の 57%
- 脳卒中の 72% にOSAがあったわけです。
当然、睡眠時無呼吸症候群は生命予後を悪化させます。海外の研究でAHIが20以上のSAS患者では、5年間の生存率が84%、8年間の生存率が63%まで低下すること報告しています。SAS患者の死亡原因の多くが脳血管障害であります!
Q10) 睡眠時無呼吸症候群の治療・対策はについて、教えてください?
OSAの治療では重症度、閉塞部位、患者の希望に応じて、集学的治療法・対策は重要です。治療・対策の選択として:
- 生活習慣の改善:睡眠習慣の改善、アルコールの禁止、
- 肥満に対する減量療法:食事療法、運動療法
- 睡眠時体位:側臥位での就寝・睡眠
- 外科的治療
- 口腔内装置
- CPAP療法
上記のいくつの治療法・対策を組み合わせます。
1] Tokunaga T: Long-term compliance with nasal continuous positive airway pressure therapy for sleep apnea syndrome in an otorhinolaryngological office. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2013 Aug;270(8):2267-73.
Sateia MJ: International classification of sleep disorders-third edition: highlights and modifications. Chest. 2014 Nov;146(5):1387-94.
2] Ito E, Inoue Y: The International Classification of Sleep Disorders, third edition. American Academy of Sleep Medicine. Includes bibliographies and index. 睡眠障害国際分類第3版(ICSD-3) (特集 高齢者の睡眠障害 : 健康睡眠を目指して) Nihon Rinsho. 2015 Jun;73(6):916-23.